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Research


■生物を学ぶ 〜生命のしくみを分子レベルで解き明かす〜
 (分子生物学・ナノバイオロジー)

1.イカ墨の基礎特性評価
イカは敵に対して墨を吐きます。ところで、イカ墨粒子とは、どのような形状で、どのような特性があるのでしょう。単純な疑問ですが、正確に答えるためには先端科学技術が必要です。

1.1.イカ墨のナノ観察
原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscopy:AFM)を使って、イカ墨粒子をナノスケールで観察してみましょう。図に雲母基板上に吸着させた、アカイカから抽出したイカ墨粒子のAFM像を示します。AFM像の右下に2 μm(マイクロメートル)のスケールバーが表示されており、観察物の大きさを測ることができます。また、観察物の高さ(紙面の鉛直方向)を色の濃淡で表しており、白色ほど観察物の高さが高いことを意味しています(観察物の実際の色ではありません)。AFM像に写る白い球状物がイカ墨粒子で、黒色部分は雲母基板(何もないところ)です。イカ墨粒子の数を数えることもできます。図aは高濃度のイカ墨懸濁液を用いたので、イカ墨粒子が多く見えます。一方、イカ墨懸濁液の濃度を薄めると、図bのようにイカ墨粒子がバラバラに分散している様子がわかります。AFM観察によって、イカ墨粒子の大きさはほぼ均一であることが世界ではじめてわかりました。人工的につくったものではないのに、これほどまでにきれいに大きさが揃っていることに、自然の美しさを感じられるでしょう。



もう少し詳しくイカ墨粒子の大きさを調べてみましょう。AFM像の下に示した断面形状はAFM像中の白線部分にあたります。この断面形状からアカイカのイカ墨粒子の大きさを計測すると、高さが約170 nm(ナノメートル)、幅が約340 nmでした。つまり、雲母基板上に吸着したイカ墨粒子は半球状に変形しています。そこで、液体中で分散している本来のイカ墨粒子は球状であると仮定すると、イカ墨粒子の大きさは理論式をもとに約300 nmと計算できます。この大きさはヒトの毛髪の太さの300分の1程度に相当し、ちょうど顔料系インクに使える大きさです。
ちなみに、イカ墨の大きさはイカの種類によって異なることがAFM観察からわかっています。
T. Matsuura et al.: Jpn. J. Appl. Phys. Conf. Proc. 1 (2013) 011003 (11 pages). [DOI:10.1143/JJAPCP.1.011003]

1.2.イカ墨の光特性
イカ墨の黒色は主成分のメラニン色素に由来します。メラニン色素は黒色〜黒褐色で不溶性のユーメラニン(eumelanin:eu=真正)と赤褐色〜黄色でアルカリに可溶性を示すフェオメラニン(pheomelanin:pheo=薄い)があります。日本人の黒髪はユーメラニン、北欧人にしばしば見られる赤毛はフェオメラニンによることが知られています。イカ墨はユーメラニン高分子が主成分であるため、黒色となります。すなわち、私たちが目で見える可視光領域の光を幅広く吸収します。さらに、イカ墨は紫外線領域の光も吸収することができます。一般に天然色素は紫外線を浴びると容易に分解されますが、イカ墨は紫外線を照射しても退色しません。こうしたイカ墨粒子の光特性は、紫外線防止剤や次世代太陽電池など、新たな産業応用の可能性があります。
T. Matsuura et al.: Biosci. Biotechnol. Biochem. 73 (2009) 2790-2792. [DOI:10.1271/bbb.90602]

1.3.イカ墨の熱特性
天然色素であるイカ墨は熱に強いのでしょうか。一般に天然色素は熱に非常に弱く、容易に分解されるため、高温加熱すると退色が生じます。しかし、イカ墨を空気中で加熱すると、約140℃まではイカ墨についた水分だけが蒸発するだけで、100℃を超えてもイカ墨は分解されず、そのまま残ります。400℃以上の高温で加熱しない限り、イカ墨は熱分解しません。このように、イカ墨は優れた耐熱性を示します。イカ墨が加熱調理に使えることにも納得できます。
T. Matsuura et al.: Jpn. J. Appl. Phys. 51 (2012) 06FG07 (5 pages). [DOI:10.1143/JJAP.51.06FG07]


【動画配信】道民カレッジ「ほっかいどう学」大学インターネット講座
『“北海道発”環境イノベーション 〜イカ墨の有効資源化への挑戦〜』



2.リボソームの1分子観察
私たちの体内にあるリボソームは、mRNAに転写された遺伝情報を解読し、タンパク質に翻訳する場として働きます。この解読機能をリアルタイムで「観る」ためには、固体基板表面上に固定することが不可欠です。そこで、1分子レベルで評価できる原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、固体表面上におけるリボソームの構造形態を評価しました。



大腸菌から抽出したリボソーム粒子の高さは、3つの領域(4、9、11 nm)に分けられることがわかりました。原核生物の70Sリボソームは50Sと30Sと呼ばれる大小のサブユニットから構成されています。すなわち、得られた3つの高さ領域は、それぞれ30S、50Sおよび70Sに相当します。また、表面上での70Sリボソームの存在は10%程度であることもわかりました。このように、AFMを用いることで、従来の手法では検出困難な極めて少量のリボソームとそのサブユニットを固体表面上で識別できることが実証されました。これら知見をもとに、タンパク質ができるしくみや遺伝子情報の解読のしくみなど、従来の生物学ではわからなかったことが明確になるでしょう。
T. Matsuura et al.: Jpn. J. Appl. Phys. 43 (2004) 4599-4601. [DOI:10.1143/JJAP.51.06FG07]
T. Matsuura et al.: Biosci. Biotechnol. Biochem. 70 (2006) 300-302. [DOI:10.1271/bbb.70.300]


生体分子の1分子イメージング: 『Seeing is believing !(百聞は一見にしかず)』。生体分子をナノスケールで観察することで、生体分子の形や機能を1分子レベルで知ることができます。これにより、タンパク質ができるしくみや遺伝子情報の解読のしくみなど、従来の生物学ではわからなかったことが明確になるでしょう。
生体分子相互作用の1分子計測: 従来の平均的な情報ではなく、生体分子の機能を1分子レベルで調べることで、真実を解き明かす。脱アボガドロ数の新しい生物学「ナノバイオロジー」を拓く。

Keyword: ナノバイオロジー・生物物理学・原子間力顕微鏡(AFM)


■生物から学ぶ 〜生命のしくみを役立てる〜
 (生物工学・環境工学)

1.未利用資源であるイカ墨の太陽電池材料への応用
水産資源が豊富な北海道。特に、イカは食卓に欠かせない食材ですが、墨などの非可食部の多くは廃棄物として処理されています。近年、こうしたイカの廃棄物を有効資源に転換させようとする新たな取り組みが北海道ではじまっています。
イカ墨粒子は可視光領域の光を幅広く吸収します。また、太陽光に含まれる紫外線に強く、熱にも強い性質をもっています。したがって、イカ墨粒子を色素増感太陽電池(Dye-Sensitized Solar Cell:DSSC)の光増感色素として利用する研究が行われています。



この太陽電池はイカ墨で染めた二酸化チタン電極と白金対向電極の間の空間にヨウ素電解質を封じ込めた構造をしています。現在のところ、微小セルでの発電量は数百μW(マイクロワット)と弱いですが、セルを直列に並べて発電パネルを製造すれば、十分な発電量が期待できます。



さらに、イカ墨粒子の大きさに合った細孔をもつ二酸化チタン電極の新しい作製法を開発しています。イカ墨粒子と二酸化チタンを混合したペーストを準備し、それを基板上に塗布し、450℃の高温で焼成します。イカ墨粒子は加熱によって熱分解するため、その部分が細孔(穴)となり、結果として、二酸化チタン電極の表面粗さが飛躍的に上昇しました。この細孔はイカ墨粒子の大きさにちょうど合っているため、イカ墨粒子が二酸化チタン電極に効率良く吸着することが期待でき、発電効率のさらなる向上につながると期待できます。このように、イカ墨粒子の光学的および熱的特性を利用することで、新たな産業応用が期待されています。
T. Matsuura et al.: Jpn. J. Appl. Phys. 51 (2012) 06FG07 (5 pages). [DOI:10.1143/JJAP.51.06FG07]
特許申請 (特願2013-160121)
平成26年度 道民カレッジ「ほっかいどう学」大学インターネット講座 補助教材(公益財団法人北海道生涯学習協会, 2014年11月, 総81頁) pp.19-24


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『“北海道発”環境イノベーション 〜イカ墨の有効資源化への挑戦〜』



2.ドラックデリバリー
マイクロバブル(キャビテーション)
Y. Tomita et al.: Ultrasonics 55 (2015) 1-5. [DOI:10.1016/j.ultras.2014.07.017]

3.生体分子センサー
Y.S. Kim et al.: Biosens. Bioelectron. 22 (2007) 2525-2531. [DOI:10.1016/j.bios.2006.10.004]

生体分子を固定化する: 金属、半導体、ガラスなどのような固体基板上にDNAやタンパク質などの生体分子を固定する技術を開発しています。自己組織化を利用することで、均一かつ活性を保ったまま固定する・アとを目指しています。これにより、生体分子の機能を1分子レベルで計測したり、DNAチップ等のナノバイオデバイスへの応用が期待できます。

Keyword: 表面科学・ナノバイオデバイス・自己組織化



■未来を育む 〜教育環境を創造する〜
 (科学教育・教育工学)

1.先端科学教育
松浦俊彦: 先端科学を体験する教員研修会の実践, 日本科学教育学会研究会研究報告, 26, No.3 (2011) 37-40.

2.科学教材開発
100円グッズを活用した実験教材
酸性・塩基性判別マイクロスケール実験: 高田慎司 他: 北海道教育大学紀要(教育科学編), 59 (2008) 43-50. [URL:http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/918]
簡単につくれる聴診器の作成方法: 田中奈穂子 他: 北海道教育大学紀要(教育科学編), 58 (2007) 17-24. [URL:http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/461]

生命科学視覚教材
生命科学視覚教材: 松浦俊彦 他: 学校教育学会誌, 13 (2008) 67-72.

3.理科教員養成
理科研修
松浦俊彦: 理科教員研修会における学生のTA経験とその効果, 『学習支援と教師の仕事 ―中堅大学における学生支援のためのFD2―』 宇田川拓郎, 福田薫, 吉井明編(五稜出版社, 2012年11月29日, 総103頁, ISBN:978-4906103171) pp.35-45.

4.科学教育の国際比較
フィリピン
F.P. Tupas et al.: 北海道教育大学紀要(教育科学編), 62 (2012) 87-94. [URL:http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/2847]
F.P. Tupas et al.: 北海道教育大学紀要(教育科学編), 61 (2011) 219-228. [URL:http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/2333]

5.大学教育
成績評価
松浦俊彦: わかりやすい成績評価法−理系科目を例に, 『高校生・受験生・大学生のための中堅大学活用術』 宇田川拓郎編著(大学教育出版, 2014年10月30日, 総193頁, ISBN:978-4864292764) pp.99-111.

6.特別支援教育

北海道の教育環境をつくる:
自閉症児のための共通言語をつくる:

共同研究等の関係機関(実績)




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