- 季節のトピックス -
函館山「要塞」の夏の植物です
(2007年8月10日)

 函館山は,日露戦争前から第二次世界大戦終了まで,旧帝国軍によって要塞として管理され,一般人の立ち入りは禁止されていました。全山の至るところに,砲台や弾薬庫等の軍事遺跡があります。今年度は,ツツジ山砲台跡前の駐車場に車を止め,千畳敷砲台跡までの尾根沿いを中心に植物調査をしていますので,まさに,旧要塞の中心部を巡ることになりました。強固な要塞跡も,今はすっかり植物で覆われています。
 さて,前回の調査から二ヶ月経ち,全山夏の植物です。その中から,特徴的な開花植物を中心に紹介しましょう。
 今の時期,一番目立つのはエゾアジサイ(ユキノシタ科)です。全山のあちこちに群落を作っていましたが,その中に装飾花が中心部近くまであり,一見セイヨウアジサイを思わせるものもありました。このような株をもとに品種改良されて,今見るアジサイとなったのかもしれません。函館山の特徴は,山地でありながら海に突き出ているために潮風の影響も強く,海岸性の植物が尾根沿いにも見られることです。その例としてカセンソウとトウゲブキ(いずれもキク科),エゾフウロ(フウロソウ科),そして千畳敷砲台跡に咲いていたヒロハノカワラサイコ(バラ科)を紹介しましょう。
 一方,林床を抜けるやや湿った登山道沿いには,やはり亀田山地側と共通の植物が沢山生育しています。ここではその中から,今回初登場のミツモトソウ(バラ科),ナンテンハギ(フタバハギ,マメ科),ミミコウモリ(キク科)と,咲き始めましたお馴染みのキツリフネ(ツリフネソウ科)を紹介しましょう。キツリフネは,これから秋に向かって全山を彩るでしょう。
 最初に書きましたように,函館山は要塞でもありました。その要塞跡に,道内では稀な夏の花が咲いていました。オミナエシ(オミナエシ科)とクサボタン(キンポウゲ科)そして低木のリョウブ(リョウブ科)です。オミナエシは盆花として植栽もされているので,全道的に逸出したものが分布していますが,これが自然のものだとしたら比較的珍しいと思われます。また,クサボタンとリョウブは,北海道では道南の一部のみに分布している希少種です。
 函館山は,植物だけを対象としても興味が尽きませんが,要塞が作られてから100年以上の月日の中で,人工物と自然が完全に一体化して,また独自の植生をもたらしていることを,今回は確認出来ました。更に100年経ったならば,どのように函館山は変わるのでしょうか。もしかしたら,地球温暖化で海水面が上がり,函館山は再び島に戻っているのかもしれません。(長谷 昭)


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エゾアジサイ
群落の中にアジサイが?(挿入)

カセンソウ
もう最盛期を過ぎました。

トウゲブキ
こちらは最盛期間近です。
エゾフウロ ヒロハノカワラサイコ
砲台跡に咲いていました。
ミツモトソウ
ナンテンハギ(フタバハギ)
双葉が特徴です。
ミミコウモリ キツリフネ

オミナエシ

クサボタン
合弁花ではありません。

リョウブ


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