様々なシグナルを収斂し統合する機構が見えてきた!


Elena Baena-Gonzalez, Filip Rolland, Johan M. Thevelein and Jen Sheen (2007)
A central integrator of transcription networks in plant stress and energy signaling.(植物のストレスとエネルギーのシグナル伝達における転写ネットワークの中心的統合因子。)
Nature Vol. 448, No. 7156, pp. 938-942. (2007年8月23日号)

 光合成を行う植物にとって,は,糖などの光合成産物の供給が途絶え,しかも呼吸によって貯蔵物質が消費されるなど,エネルギーストレス状態に陥る時間帯である。しかし,植物が毎日の明暗サイクルの中で,如何に暗期を感知し,エネルギー供給の低下に適応しているかは,ほとんど解明されていない。
 この論文の著者らは,暗期で誘導される遺伝子群dark-induced (DIN) genes)が,暗期以外の多様なストレス条件下(低酸素環境下及び除草剤DCMU存在下など)でも誘導され,糖と光によって抑制されることを見出している。また,これらの遺伝子群のいくつかを対象とした詳細な研究では,これらが,光とは独立の一見無関係な多様なストレスシグナルにも応答して活性化されることを示している。更に,多様なストレスによるDIN遺伝子の活性化が,タンパク質キナーゼの阻害剤のK252aによって無くなることより,ストレスと糖のシグナルを統合するタンパク質キナーゼの必要性が示唆された。
 さて,米国ハーバード大医学部のグループによる本論文では,糖代謝制御に関与しているタンパク質キナーゼである酵母のSnf1とほ乳類のAMPKに相同の,シロイヌナズナのSnf1関連キナーゼSnf1-related kinase, SnRK)遺伝子ファミリーのメンバーによる,DIN遺伝子の一つであるDIN6の特異的活性化を調べたところ,KIN10KIN11と名付けられているSnRK1サブファミリーに属する二つのタンパク質キナーゼが,この活性化に関与していることを報告している。この両キナーゼは相互補完し,両者の二重突然変異の場合のみに表現型に欠陥が生じる。そこで,主に,KIN10遺伝子の過剰発現形質転換体を用いて,このキナーゼの機能を調べたところ,(1)KIN10は,遺伝子のプロモーター領域のTATAボックスに近接するGボックス(CACGTA, G1)に結合する転写因子GBFG-box binding factor)の一種を通して,多様なシグナルを収斂すること,(2)KIN10の標的遺伝子(転写促進または抑制)は1,021遺伝子に及び,その中には,細胞壁,デンプン,アミノ酸,脂質及びタンパク質の分解に関わる主要な代謝系で発現する遺伝子を含むこと,(3)多様なストレスで誘導されるKIN10で制御される遺伝子の多くが,シクロヘキシミド耐性でGBF5の直接的標的であるグルコース抑制遺伝子群であること,(4)養分飢餓条件下でKIN10の過剰発現が植物の栄養成長を持続させ生存を促進すること,などが明らかになった。
 以上の結果より著者らは,KIN10/KIN11が,ストレス,糖及び成長シグナルを感知してそれらのシグナルを収斂・統合し,植物の全体的な代謝とエネルギーバランスを転写レベルで制御して成長と生存を総合的に調節する,重要な役割を担っているタンパク質キナーゼであると結論付けている。
 尚,真核多細胞生物においては,このような役割を担っているタンパク質キナーゼの報告はなく,この研究成果が,ほ乳類の相同遺伝子産物であるAMPKの機能を,糖尿病,ガン,肥満及び寿命などと関連させて理解することや,作物生産の収量の改善及び再生可能なエネルギー生産の研究に資することが期待されると筆者らは結んでいる。

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