アマゾンにおける自然の大実験が地球の将来を予測する?!
Oliver L. Phillips et al.(他65名) (2009)
Drought sensitivity of the Amazon rainforest. (アマゾンの熱帯雨林の旱魃感受性。)
Science Vol. 323, No. 5919, pp. 1344-1347.(2009年3月6日号)
アマゾン川流域の老齢の森林は,そのバイオマスに120 Pg(1.2×1017 g)の炭素を貯蔵しており,そして,光合成と呼吸を通して,人類が化石燃料を燃やすことにより排出している2倍以上の,18 Pg の炭素を毎年処理しているとされている。従って,アマゾンの森林動態における比較的小さな変化が,大気中のCO2濃度に影響し,それを通して気候変動そのものの速度にも大きな影響を及ぼす可能性がある。
さて,アマゾンについて予測されている21世紀の気候的シナリオはその乾燥化であり,人為的影響もありすでにそれが始まっているという見方もある。その乾燥化が,炭素損失や表面エネルギーバランスの変化を通して,気候変動を速めるかもしれないことが推定されているが,その一方では,森林の若返りを促し,生産性を高めるという見解もある。どちらにしても,その影響の大きさを決定することにおいて鍵となるパラメータは,旱魃への熱帯林の感受性―または回復力―であるとされているが,これについては十分には理解されてはこなかった。
南北アメリカおよびヨーロッパの多数の研究者を含むこの論文の著者らは,大規模な長期の研究ネットワーク(RAINFOR)を通して, 25年間にわたってアマゾン盆地全体にまたがる136の森林永久調査区をモニターし,アマゾンの森林動態を調査してきた。そして,アマゾン川流域の熱帯雨林が,長期間にわたって巨大な炭素シンクであることを報告している(一つ前の話題参照)。そこに降ってわいたように,2005年,100年に一度と言われる強度な旱魃がアマゾンを襲った。そこで彼らはこの旱魃への森林の応答を評価するために,旱魃前後で比較可能な55調査区のバイオマス変化を緊急調査した。
その結果,旱魃の影響を受けた森林はバイオマスを失い,大きな長期の炭素シンクを後退させたことが分かった。そして,最も大きなインパクトは,乾期が異常に厳しかったところで観察され,2005年以前の状況と比較して,月100ミリメートルの水不足状態に陥った森林は,1 haあたり5.3 Mgの炭素の地上バイオマスを失った。アマゾン全体では,旱魃は,1.2〜1.6 Pg(1.2×1015〜1.6×1015 g)のバイオマス炭素の減少をもたらしたと推定されている。
以上のように,アマゾン川流域は旱魃に対して脆いようであり,熱帯の気候の変化が地球規模での炭素循環に大きなインパクトを持つ可能性を示唆した。この2005年には,地球的記録で三番目に大きい大気のCO2濃度の例外的な増加があったとされている。これがアマゾン旱魃の影響によるかどうかは証明されてはいないが,熱帯の旱魃は,人類がもたらす気候変動の結果として,今世紀,激しくまたより頻繁になるかもしれないと予測されているので,この自然の大実験の結果の,更なる科学的・総合的検証が望まれる。