熱帯林は巨大な炭素貯蔵庫(炭素シンク)であった!


Simon L. Lewis et al. (他32名) (2009)
Increasing carbon storage in intact African tropical forest.(アフリカの原生熱帯林における増加しつつある炭素貯蔵量。)
Nature Vol. 457, No. 7232, pp.1003-1006.(2009年2月19日号)


 熱帯林は地球の陸地面積の7-10%をカバーしており,陸上植生における40-50%の炭素を貯蔵し,光合成と呼吸を通して,毎年,人間が化石燃料使用から発するもののおよそ6倍もの炭素を処理している。熱帯林は,したがって,未だあまり十分には定量的研究がなされてはいないものの,地球規模の炭素循環の重要な構成要素である。
 一方,アマゾン川流域の長期のモニタリング調査区における調査では,老齢の森林が最近数十年間にわたって炭素貯蔵量が増加したことを示している。しかし,世界の熱帯林の3分の1を占めるアフリカにおけるこれに関するデータがほぼ完全に欠如しているために,このアマゾンにおける炭素貯蔵量の増加が,汎熱帯的現象であるのか,あるいはアマゾンだけでの地域的なものであるのか,不明であった。
 さて,イギリス,アフリカ諸国,アメリカ等の多くの研究者によるこの論文では,アフリカの10ヶ国にわたる163haの面積に及ぶ79の熱帯林調査区における長期のモニタリングによる,炭素貯蔵量の変化を報告している。それによると,79の調査区全体で,生きている木の地上の炭素貯蔵量が,1968〜2007年間に年間1haあたり0.63 M(メガ)gの割合で増加していた。このデータを未測定の森林成分(生きている根,小さな木,ネクロマス)へ外挿し,かつ大陸全体へ換算することにより,年間0.34 P(ペタ:10の15乗)g の炭素がアフリカの熱帯林樹木全体で増加したと推定した。
 炭素貯蔵量におけるこれらの報告された変化は,単位面積あたりのアマゾン川流域の森林について報告されている値と似ており,また,大気中の炭素循環から推定された値とも近似しており,老齢森林における炭素貯蔵量の増加が,汎熱帯的現象であることを示している。この論文の著者らは,そこで,この研究からと熱帯アメリカ及びアジアからのすべての標準化された類似の調査データを統合し,ここ数十年間の間ですべての熱帯林全体で年間1.3 Pgの炭素が貯蔵されている(すなわち巨大な「炭素シンク」である)ことを示した。
 炭素シンクとしては,亜寒帯の針葉樹林帯の役割などが強調されており,熱帯林については,高温・多湿であるために微生物等の活発な分解作用による二酸化炭素の発生が多く,かつ土壌もそれにより炭素を十分には保持し得ないだろうと考えられており,大きな炭素シンクであることには疑問符が付いていた。しかし,本研究は,熱帯林は,炭素を貯蔵する巨大な炭素シンクであり,そしてそれによって大気中のCO2の増加の速度を減少させる重要な生態系であることを示した。従って,地球温暖化を防ぐためにも,熱帯林の十分な保護と,更なる精密で系統的な調査が必要とされよう。


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