Kyoko Miwa, Junpei Takano,
Hiroyuki Omori, Motoaki Seki, Kazuo Shinozaki, and Toru Fujiwara
(2007)
Plants tolerant of high boron levels.(高ホウ素レベルに耐性の植物。)
Science Vol. 318, No.5855, p. 1417.(2007年11月30日号)
Tim Sutton, Ute Baumann, Julie Hayes,
Nicholas C. Collins, Bu-Jun Shi, Thorsten Schnurbusch, Alison
Hay, Gwenda Mayo, Margaret Pallotta, Mark Tester, and Peter Langridge
(2007)
Boron-toxicity tolerance in barley arising from efflux transporter
amplification.(外向きトランスポーターの増幅から生じる大麦のホウ素毒性耐性。)
Science Vol. 318, No. 5855, pp.1446-1449.(2007年11月30日号)
ホウ素(B)は植物の必須微量栄養素であり,マイクロモル濃度レベルで十分の成長促進効果をもたらす。しかし,1mM程度の濃度でも植物によっては強い成長阻害を示し,地域によっては,農業生産を阻害する主要な要因となっている。
土壌中のホウ素は,通常の土壌pHではイオンに解離しないホウ酸の形で膜を自由に通過し,細胞内に入ると考えられている。一方,最近シロイヌナズナから外向きホウ素トランスポーターBOR1が同定されたが,これは低いホウ素の供給下における根からシュートへのホウ素の輸送に必要であり,高いホウ素濃度では分解されてしまい,高ホウ素濃度への耐性には関与しないとされている。
東京大学の三輪らによる1番目の論文では,このBOR1遺伝子のパラログ(同種内の相同遺伝子)の一つであるBOR4遺伝子に注目した。この遺伝子産物BOR4及びBOR4と緑色蛍光タンパク質(GFP)との融合タンパク質(BOR4-GFP)は,いずれも酵母の異種発現系でホウ素トランスポーター活性を示したことより,後者のBOR4-GFP遺伝子をカリフラワーモザイクウィルスの35S
RNAプロモーターにつないだ遺伝子Pro35S-BOR4-GFPを構築し,シロイヌナズナを形質転換した。得られたBOR4-GFPを強制発現しているトランスジェニック植物は,野生型では全く成長出来ない10
mMのホウ素存在下でも良好な成長を示し,また,根及びシュートへのホウ素の蓄積も少なかった。また,BOR4遺伝子の正規のプロモーターを持つProBOR4-BOR4-GFP遺伝子で形質転換した植物において,GFP蛍光をもとにその局在性を調べたところ,根の伸長領域の表皮細胞の外側の細胞膜への分布を確認した。これらより,BOR4は細胞に入った過剰なホウ素を外界に排出することにより,ホウ素耐性を植物にもたらしたと結論した。
一方,同じ号に掲載されたオーストラリアのアデレード大学のSuttonらによる第2の論文では,ホウ素感受性の大麦品種Clipperと強い耐性を示す非農業品種Saharaを用いて,ホウ素毒性耐性に関わる量的形質遺伝子座が4H染色体上にあることを見つけた。そして,その遺伝子座の中にある,シロイヌナズナのBOR1遺伝子のオルソログ(異種での相同遺伝子)のBot1遺伝子が,その原因遺伝子の一つであることを突き止めた。更に,強いホウ素毒性耐性を示すSaharaでは,この遺伝子がClipperの4倍存在し,かつ,根では約160倍,葉身では18倍も高く発現していた。また,in
situハイブリダイゼーションにより,この遺伝子が,とくにSaharaの根の伸長領域と葉身の排水構造領域において高発現していることも明らかにされた。
以上の結果と,大麦Bot1がシロイヌナズナのBOR1よりはBOR4と相同性が高いというアミノ酸配列上の特徴より,三輪らの論文も引用して,Bot1が外向きホウ素トランスポーターとして過剰な細胞内ホウ素を排出することにより,Saharaにホウ素毒性耐性を付与していると結論した。
二番目の論文の著者らが居住する南オーストラリアは,地球上でも特に土壌ホウ素濃度が高く,作物の生産性を大きく阻害している地域であるとされている。以上の研究成果が,作物にホウ素毒性耐性を付与するための育種に寄与する可能性を,彼らは最後に示している。
ホウ素の植物における生理的役割については,長らく不明であった。植物体においては,その98%が細胞壁(アポプラスト)に存在することより,系統的な細胞壁成分の生理・生化学的分析の結果,ホウ素が細胞壁中のペクチンのある必須成分を架橋し,細胞壁を安定化させることが分かった。しかし,細胞中の残り2%のホウ素も何らかの生理的機能を担っていると考えられているが,それについては未だに不明のままである。