成長の概日リズムの分子機構の理解に糸口!


Kazunari Nozue, Michael F. Covington, Paula D. Duek, Severine Lorrain, Christian Fankhauser, Stacey L. Harmer and Julin N. Maloof (2007)
Rhythmic growth explained by coincidence between internal and external cues.(内部と外部の合図間の一致により説明される周期的成長)
Nature Vol. 448, No. 7151, pp. 358-361. (2007年7月19日号)

 生命現象は,昼夜の変動に同調した24時間を周期とするリズムすなわち概日リズム(サーカディアンリズム)を持っていることが多く,特に植物においてこれが顕著である。この概日リズムをもたらすのは,生物体内に存在する24時間周期で振動する体内時計(概日時計)であり,その中心は,転写の負のフィードバックループ(転写因子が自己の遺伝子発現を抑制する)を用いた保存された振動機構からなると考えられている。シロイヌナズナの振動機構の中心振動体においては,二つの転写因子CCA1(CIRCADIAN CLOCK-ASSOCIATED 1)及びLHYLATE ELONGATED HYPOCOTYL)とレスポンスレギュレーター様因子TOC1TIMING OF CAB EXPRESSION 1)が,コアとなる構成要素であると考えられており,これらの遺伝子の欠損突然変異体では勿論,過剰発現形質転換体でも周期性が乱される。
 一方,概日時計は光によってリセット及び速度調整される。そして,その光受容体はファイトクロムとクリプトクロムであることが知られているが,それらが受け取った情報がどのように中心振動体に伝達されるのか,更に,そこからどのような情報処理がなされて周期的生命現象を生じるのかについては,多くが未解明のままである。
 さて,野末らによる本論文においては,胚軸の成長が日周性を示すシロイヌナズナの実生を用いて,どのように体内リズムと光受容が相互作用して成長を制御するのか,その分子機構を報告している。シロイヌナズナの実生においては,胚軸の伸長成長が暗期(夜)の終わり(明け方)にのみ起こる。すなわち,明期(昼)においては伸長成長せず,また,暗期(夜)に入っても成長は開始できず,明け方になって初めて成長するという概日リズムを示す。彼らは,野生型及び中心振動体の構成要素の欠損突然変異体や過剰発現形質転換体の実生を様々な光周期において栽培し,その胚軸の成長を調べることにより,日周性成長を正に制御する転写因子である二種類の塩基性へリックス・ループ・へリックス(bHLH)タンパク質の遺伝子PIFphytochrome interacting factor)4PIF5を突き止めた。
 日中は,これらの遺伝子発現に対して体内時計は働かず,構成的に転写される。しかし,光はそれらの翻訳産物(タンパク質)の分解を促進しタンパク質レベルを低下させるために,伸長成長が抑えられている。一方,夜になると体内時計が働き始め,夜半までは転写と翻訳の両者を抑制するが,夜明け前に抑制が解除されて転写と翻訳が開始し,高い転写レベルとタンパク質の蓄積が一致した段階(明け方)に成長が促進される。
 以上のように,PIF4PIF5の二つの遺伝子が光と体内時計の両者によって発現調節されることにより,それぞれからの情報伝達が統合され,その結果として調節された日周リズムが生じるのである。この報告は,内因性シグナル(この場合は体内時計)と環境シグナル(この場合は光)が,どのように協調して生命現象を調節するのかを理解するための,一つのモデルシステムを提供したものとして評価されている。今後,シロイヌナズナや他の植物の類似のシステムを用いて,更に詳細な研究が展開されて行くことが予想される。

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