イネのケイ素蓄積の分子機構解明!


Jian Feng Ma, Naoki Yamaji, Namiki Mitani, Kazunori Tamai, Saeko Konishi, Toru Fujiwara, Maki Katsuhara and Masahiro Yano (2007)
An efflux transporter of silicon in rice. (イネにおけるケイ素の外向きトランスポーター)
Nature Vol. 448, No. 7150, pp. 209-212.(2007年7月12日号)

 ケイ素は,高等植物にとっては必須栄養素ではなく,微量に水溶液中に溶けているケイ素で十分に成長を維持できる,いわば「準必須栄養素」である。しかし,イネにとっては重要な栄養素であり,シュート(葉,茎及び花穎等)に乾燥重量にして10%ものケイ素(主に非結晶性含水ケイ酸体として)を蓄積し,カビの感染や害虫の攻撃を緩和したり,風倒や他の非生物的ストレスを軽減したり,集団内の植物による光の遮蔽を改善したり,また蒸散による水分のロスを最小限にしたりしている。また病気への抵抗にも関与していると言われている。従って,その蓄積がないとイネの成長や収量が大幅にダウンする。
 さて,イネにおいては,ケイ素の細胞内への輸送に関わる内向きトランスポーター(輸送体)をコードしているLsi1low silicon rice l:この遺伝子に欠損があると,イネのケイ素含量が低下することより命名された)遺伝子がすでに同定されている。岡山大学の且原研究室を中心とするグループは,本論文において,Lsi1とは相同性がないために特徴付けがなされていなかった,第二のケイ素の蓄積に関わる遺伝子Lsi2が,根の外皮(表皮)と内皮で構成的に発現していること,その遺伝子がコードするタンパク質は,Lsi1タンパク質と同様にこれらの細胞の細胞膜に局在すること,しかし,Lsi1タンパク質が細胞の遠心側(根の外部側)に位置するのに対して,Lsi2タンパク質は向心側(根の内部側)に局在することを示した。更に,アフリカツメガエル卵母細胞にこの遺伝子のcRNAを注入し発現させることにより,Lsi2タンパク質がケイ素の外向きトランスポーターであることを証明した。
 イネ科植物の根では,カスバリー線が外皮にも存在するためにアポプラスト経路の輸送が阻害されており,養分は必ず外皮と内皮においてはシンプラスト経路によって輸送されることになる。イネは,これらの細胞の遠心側においてはケイ素を細胞内に輸送する内向きトランスポーターを,向心側においてはケイ素を細胞外に輸送する外向きトランスポーターを配置することにより,効率的に中心柱に向けてのケイ素の細胞間輸送を行い,シュートにおける大量のケイ素の需要を支えていたのである。尚,Lsi2タンパク質による外向き輸送は,プロトンの電気化学的勾配によって駆動されていることを示すデータが出ている。その詳細は今後の課題であるとされているが,ここにも細胞膜プロトンポンプ(H+-ATPase)が関与していそうである。
 ちなみに,被子植物においてケイ素(ケイ酸)を大量に蓄積するのは,イネ科とカヤツリグサ科の植物のみであり,二つのケイ素トランスポーター遺伝子の獲得は,これらの植物,特にイネ科植物の適応放散と地上での大繁栄の鍵を握っているようであり,進化的にも興味深いことである。

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