Laurent Corbesier, Coral Vincent, Seonghoe
Jang, Fabio Fornara, Qingzhi Fan, Iain Searle, Antonis Giakountis,
Sara Farrona, Lionel Gissot, Colin Turnbull, and George Coupland
(2007)
FT protein movement contributes to long-distance signaling in
floral induction of Arabidopsis.(FTタンパク質の移動はシロイヌナズナの花成誘導における長距離情報伝達に寄与する。)
Science Vol. 316, No. 5827, pp. 1030-1033. (2007年5月18日号)
Shojiro Tamaki, Shoichi Matsuo, Hann
Ling Wong, Shuji Yokoi, and Ko Shimamoto (2007)
Hd3a protein is a mobile flowering signal in rice.(Hd3aタンパク質はイネにおける可動性花成シグナルである。)
Science Vol. 316, No. 5827, pp. 1033-1036. (2007年5月18日号)
植物においては,日長の季節的変化は葉で受容され,シュート頂端での花成を誘導する長距離シグナル物質である花成ホルモン(フロリゲン)を分泌することが推定されてきた。しかし,70年間に及ぶ多くの研究室での努力にも拘わらず,花成ホルモンの実体はつかめずにきた。
さて,シロイヌナズナでは,葉の維管束組織(篩部)におけるFLOWERING LOCUS T (FT
)遺伝子の転写が花成を誘導することが示されており,花成ホルモンの実体は,葉で合成され篩管を通ってシュート頂分裂組織まで運ばれ,そこでFTタンパク質に翻訳されるFT
mRNAであると二年前に考えられた。しかし,その証明はなされず,逆にそれを否定する結果が得られていた。
ドイツのマックス・プランク研究所のCorbesierらは,篩部細胞において特異的に発現されるFTと蛍光リポータータンパク質との融合タンパク質を作る形質転換植物を用いて,このタンパク質が頂端に移動し,また,接ぎ木した植物間を長距離移動しシロイヌナズナの花成を誘導することを証明した。その結果よりFTタンパク質こそ花成ホルモン(フロリゲン)であると,結論付けた。
一方,奈良先端科学技術大学院大学の島本功のグループは,FTのオルソログ(相同遺伝子)であるHd3aにコードされるタンパク質が,イネにおいて,葉からシュート頂端分裂組織へ移動し花成を誘導することを示すことから,Hd3aタンパク質がイネの花成ホルモンであることを明らかにした。
以上の,日独で独立に行われた,系統的に遠く離れた長日植物であるシロイヌナズナと短日植物であるイネにおける研究は,葉で光周期に応じて合成誘導されるFT/Hd3aタンパク質こそ,被子植物の普遍的花成ホルモンであることを,強く示唆している。
尚,FTタンパク質は,茎頂で発現するFDタンパク質と複合体を形成して遺伝子調節タンパク質として機能し,花芽形成に導く調節遺伝子群を活性化すると考えられている。
※追記:先日遅れて到着した,植物科学関係の最高ランクの専門誌「The Plant Cell」の5月号に,ウリ科カボチャ属においても,短日光周期に応答して葉で合成されたカボチャのFTタンパク質(FT mRNAではなく)が,篩管を通ってシュート(茎)頂分裂組織に移動し花成誘導することを示す,詳細な研究が報告された。これで,FTタンパク質(及びその相同タンパク質)が,花成ホルモン(フロリゲン)であることが確定したと言えよう。歴史的なことである。尚,この研究は主に米国カリフォルニア大学の研究グループによるものであり,期せずして地域と材料が異なる3つの研究が,ほぼ同時に発表されたことになる。おそらくは,大変な競争状態であったと思われ,後塵を拝した研究グループも多かったようである。(8月17日記)