ワイン用ブドウのゲノムが解読される!


The French-Italian Public Consortium for Grapevine Genome Characterization (2007)
The grapevine genome sequence suggests ancestral hexaploidization in major angiosperm phyla.(ブドウのゲノム配列は,主要な被子植物門における祖先の6倍体化を示唆する。)
Nature Vol. 449, No.7161, pp.463-467.(2007年9月27日号)

 シロイヌナズナ,イネ,ポプラに続いて,被子植物では4番目,木本植物では2番目,そして果樹作物としては初めての,ブドウのゲノムの高精度概要配列が,フランスとイタリアの共同研究チームによって報告された。
 すべてのワイン用ブドウの栽培品種は,高度にヘテロ接合性であるために,全ゲノム・ショットガン法での配列決定に不正確さをもたらす。そこで著者らは,連続した自家受粉によって完全に近いホモ接合体(およそ93%と推定される)としたピノ・ノワール種を用いて,全遺伝コードをまとめ上げた。そして,その結果を既に解読された他の植物と比較し,その特徴を明らかにした。
 ブドウゲノムは,30,434のタンパク質をコードする遺伝子を含んでおり,この値は,同程度のゲノムサイズを持つポプラで報告されている45,555よりかなり少なく,またイネゲノムで同定されている37,544よりも少なかった。しかし,ワインの風味や成分に関係するテルペンやタンニンの合成に関与する遺伝子は他の植物の二倍以上あり,テルペン合成遺伝子だけでも89個も見つかった(他の植物では30〜40個とされている)。このことは,テルペンやタンニンの代謝経路に関わる遺伝子の選択的な増幅が,ブドウのゲノムで起こったことを意味しており,また,ワイン風味の多様性をゲノムレベルで解明できる可能性を示している。
 一方,ブドウゲノムとシロイヌナズナ,ポプラ及びイネのゲノムとの全体的な比較解析をすることにより,(1)ブドウにはゲノム全体の三倍化(6倍体化)が存在すること,(2)この三倍化はポプラ及びシロイヌナズナにも認められるが,イネには見られないことなどが分かった。この結果をもとに著者らは,被子植物の進化の歴史におけるゲノム重複の時期を推定した。すなわち,双子葉類におけるゲノムの三倍化は,1億3千万年〜2億4千万年前と考えられている単子葉類と双子葉類の分岐の後,そして,真正双子葉類の適応放散の前に起きたこと,イネの祖先植物ではその後1〜2回のゲノムの倍加が,シロイヌナズナではその属する分岐群の分離後,さらに2回の重複と染色体の融合・再編成が起きたことなど,ダイナミックなゲノム全体の再編成による被子植物の進化の歴史が見えてきた。
 ブドウは,うどん粉病などの病虫害に非常に弱い植物である。このゲノムプロジェクトの成果が,病虫害抵抗性の研究にも応用されることが期待される一方,被子植物の進化についても,思いがけない事実が浮かび上がってきたと言えよう。

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