花成誘導のための計時の分子機構を解明!


Mariko Sawa, Dmitri A. Nusinow, Steve A. Kay, Takato Imaizumi (2007)
FKF1 and GIGANTEA complex formation is required for day-length measurement in Arabidopsis.(FKF1及びGIGATEA複合体形成はシロイヌナズナの日長の測定に要求される。)
Science Vol. 318, No. 5848, pp. 261-265. (2007年10月12日号)

 多くの植物は,繁殖の成功のために,花成時期を制御している日長の季節的変化をモニターしている。そして,長日植物及び短日植物のいずれも,花成誘導に必要な日長を感知したならば,花成ホルモンであるFTタンパク質(及びその相同タンパク質)を葉の篩部で合成し,篩管を通ってシュート(茎)頂に送り込んで花芽を誘導することが,本年5月に3つのグループによってそれぞれ異なる植物を用いて報告された(そのうち二つはScience 2007年5月18日号)。しかし,植物がどのように日長を測定し,それをもとに花成ホルモンタンパク質を合成誘導するかについては,その詳しい分子機構は不明であった。
 シロイヌナズナにおいては,FT遺伝子の転写制御因子をコードしているCO (CONSTANS )遺伝子が正確なタイミングにおいて発現することが,花成誘導の第一段階にあるプロセスである。また,相互に似たような概日リズムで発現するFKF1FLAVIN-BINDING, KELCH REPEAT, F-BOX 1 GIGIGANTEA )タンパク質が,COの転写を制御していることが知られている。
 さて,Sawaらによるこの論文では,微量にしか存在しないFKF1及びGIタンパク質を確実に免疫沈殿させかつ検出感度を上げるために,リポータータンパク質のタグ付けをした融合タンパク質をコードする遺伝子を構築し,これを導入した形質転換植物を用いてこの2種類のタンパク質の作用機構を調べた。その結果,(1)FKF1タンパク質は結合するフラビンによって青色光を吸収し,青色光依存的にGIと複合体を形成すること,(2)この複合体形成は長日条件でのみ午後の遅い時間帯(延長された明期)に起きること,(3)形成された複合体は,CO遺伝子のプロモーターに結合し日中のCO発現を抑制しているCDF1 (CYCLING DOF FACTOR 1 )とも相互作用し,FKF1-GI-CDF1複合体CO遺伝子のプロモーター領域に形成されること,(4)そしてその結果,FKF1がCDF1の分解を介在してCO遺伝子の発現誘導を起こすこと,を明らかにした。
 すなわち,長くなった日長を感知するのはFKF1タンパク質であり,その情報をGIとの複合体形成を通してCO遺伝子に伝え,明期においてはCDF1リプレッサーによって発現を抑制されていたCO遺伝子を,そのリプレッサーの分解を促進することによって活性化するのである。そして,光存在下においてのみ安定で活性があるCOタンパク質が,まだ明るいうちにFT遺伝子の転写を誘導し,花成ホルモンFTタンパク質を作りだすことになる。
 花成誘導機構に関しては未解明なことはまだまだ数多くあるが,この論文で示された結果によって,少なくとも長日植物については,光受容から始まるこの機構の全分子機構が見え始めてきたとも言えよう。

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