Victoria Gomez-Roldan,
Soraya Fermas, Philip B. Brewer, Virginie Puech-Page, Elizabeth
A. Dun, Jean-Paul Pillot, Fabien Letisse, Radoslava Matusova,
Saida Danoun, Jean-Charles Portais, Harro Bouwmeester, Guillaume
Beard, Christine A. Beveridge, Catherine Rameau and Soizic F.
Rochange (2008)
Strigolactone inhibition of shoot branching.(シュートの枝分かれのストリゴラクトンの阻害)
Nature Vol. 455, No. 7210, pp. 189-194.(2008年9月11日号)
Mikihisa Umehara, Atsushi Hanada, Satoko
Yoshida, Kohki Akiyama, Tomotsugu Arite, Noriko Takeda-Kamiya,
Hiroshi Magome, Yuji Kamiya, Ken Shirasu, Koichi Yoneyama, Junko
Kyozuka and Shinjiro Yamaguchi (2008)
Inhibition of shoot branching by new terpenoid plant hormones.(新たなテルペノイド系植物ホルモンによるシュートの枝分かれの阻害)
Nature Vol. 455, No. 7210, pp. 195-200.(2008年9月11日号)
参考
Harry Klee (2008)
Hormones branch out.
Nature Vol. 455, No. 7210, pp. 176-177.(2008年9月11日号)
植物には頂芽優勢という現象が古くから知られており,この強さによって植物体の構造が決まってくる。すなわち,これが強ければ針葉樹のように主軸がはっきりとした構造となり,弱ければ沢山の枝を広く縦横に展開する構造となる。これには植物ホルモンのオーキシンとサイトカイニンが関与していることが,「教科書的事実」とされてきた。しかし,枝分かれ過剰変異体を用いての研究により,根で合成されてシュートに輸送され枝分かれを阻害する,カロテノイドに由来する第三の物質の存在が示唆されてきたが,その実体は不明のままであった。
フランスのトゥールーズ大学と理化学研究所植物科学研究センターの研究グループは,それぞれ独自に,また違った材料を用いて,この枝分かれ阻害物質を同定することに成功した。これはテルペノイド系化合物のストリゴラクトン類であり,すでにある種の寄生植物の種子発芽の誘導物質として,また内生菌根共生の促進物質として知られているものであった。
トゥールーズ大学のグループは,エンドウの枝分かれ変異体であるcarotenoid cleavage dioxygenase
8 (ccd8:カロテノイドの開裂酵素の一種の変異体)を用いて,ccd8変異体の根の滲出液中にはストリゴラクトンが欠乏していること,これにステリゴラクトン・アナログを処理すると表現型が回復すること,また,シロイヌナズナのccd8変異体でも同様であることなどにより,ストリゴラクトン及びその類縁化合物が,枝分かれ阻害ホルモンとしての性質を持つことを証明した。
一方,理化学研究所のグループは,イネの分蘖(ぶんげつ,ぶんけつ)過剰の表現型を示す変異体(d変異体ccd8,
ccd7)を用いて,上記グループと同様の実験によって同じ結論に達した。
さて,先に述べたように,この物質は植物の根から分泌される根圏のコミュニケーション物質あるいはシグナル物質としての役割が知られており,前者のグループは,内生菌根共生との関係でこの物質の合成変異体を調べていたようである。また,後者のグループは,イネの収量に大きく影響する分蘖機構との関係でその変異体を精査していたように思われる。全く異なる材料と問題意識による研究が,ほぼ同時に未知の「枝分かれ阻害ホルモン」を発見するという快挙に結びついたのであるが,それをつないだのがシロイヌナズナの同様の変異体であるところが,今の植物科学の現状を物語っている。
尚,この発見は,農業生産上あるいは花卉園芸上,重要な意味を持っているとされている。一つは,枝分かれを自由に制御できる可能性が拓かれたことである。これは,イネを例に取るまでもなく,収量の増加や新しい品種の育成にとって重大な意味を持つ。更に,一部の地域で問題になっている寄生植物対策(種子の発芽の阻害等),また,内生菌根共生の制御(こちらは共生促進による収量のアップ)などにも,この成果が応用されることが期待されよう。