根端分裂組織におけるオーキシンーサイトカイニン相互作用の分子機構解明!


Raffaele Dello Ioio, Kinu Nakamura, Laila Moubayidin, Serena Perilli, Masatoshi Taniguchi, Miyo T. Morita, Takashi Aoyama, Paolo Costantino, and Sabrina Sabatini (2008)
A Genetic Framework for the Control of Cell Division and Differentiation in the Root Meristem.(根端分裂組織における細胞分裂と細胞分化の調節に関する遺伝学的枠組み)
Science Vol. 322, No. 5906, pp. 1380-1384.(2008年11月28日号)

 植物の成長や発生は,植物体の両端にある分裂組織によって維持されている。培養組織を用いた系統的な植物ホルモンの作用に関する研究をもとに,この分裂組織の活性は,オーキシンとサイトカイニンによって拮抗的に制御されていることが推定されているが,その分子機構については未解明のままであった。
 さて,根端分裂組織においては,根本体の先端にある静止中心を覆うように存在する幹細胞ニッチから切り出された基部分裂組織細胞が,更に分裂し分化・伸長領域に向けて細胞を切り出す。特にその分裂領域から分化・伸長領域への移行帯における細胞分裂と細胞分化のバランスが,正常な根の組織・器官形成には重要であるとされており,どちらが優先しても根の形態及び成長の異常をもたらす。そして,サイトカイニンによる分裂組織サイズの制御は,主にこの移行帯特異的に発現する初発サイトカイニン応答遺伝子ARR1ARABIDOPSIS RESPONSE REGULATOR 1ARR12(これらの遺伝子は,他のレスポンスレギュレーター遺伝子などの,サイトカイニンによって誘導される初発遺伝子を転写活性化する転写因子型レスポンスレギュレーターをコードしている)を介して行われると考えられている。
 イタリアと日本の主に二つの研究グループによるシロイヌナズナの根端分裂組織を用いたこの研究においては,まずこのうち,ARR1転写因子が根の分裂組織サイズの決定に重要な役割を担っていることを明らかにした。次いで,この転写因子が直接のターゲットとしていると推定される23の遺伝子を包括的に解析したところ,ARR1が,オーキシンシグナル伝達の抑制因子をコードするSHY2/IAA3SHY2)遺伝子(その産物がARF(オーキシン応答因子auxin response factor)転写因子とヘテロダイマーを形成することによりオーキシン応答阻害因子として作用する Aux/IAA遺伝子ファミリーのメンバー)を,そのプロモータに結合することを通して直接に活性化していることがわかった。更に,SHY2遺伝子は,オーキシン外向きトランスポーターをコードするPIN遺伝子,特に移行帯で発現するPIN1PIN3PIN7遺伝子の転写を負に制御し,結果としてオーキシンの移動を移行帯で制限していた。
 以上のように,サイトカイニンは,(1)細胞膜に存在するその受容体AHK3ARABIDOPSIS HISITIDINE KINASE 3に結合することにより二成分制御(ヒスチジンーアスパラギン酸リン酸リレー)系サイトカイニン依存シグナル伝達経路を活性化し,(2)その経路の最終成分であるARR1転写因子がオーキシン応答阻害因子SHY2を発現させ,(3)これがオーキシン外向きトランスポーターPIN遺伝子の移行帯での発現を抑制することによりオーキシンの根端分裂組織への移動を制限し,(結果としてオーキシン濃度を高めることにより)その基部での維管束組織の分化を促進していると考えられる。一方,高濃度になったオーキシンは, ユビキチンー26Sプロテアソーム系でのSHY2タンパク質の分解を促す(この機構についてはNature 2007年4月5日号参照)ことによってPINトランスポーターの活性を維持させて,根端分裂組織における細胞分裂を持続させるように働く。しかし,輸送されて再度低濃度になった場合はサイトカイニンの効果が優先することになり,ここにおいてオーキシンとサイトカイニンの作用のフィードバック・ループが形成されることになる。
 このように,根端分裂組織の大きさや根の成長速度の制御に必要な細胞の分化と分裂のバランスが保たれるのは,SHY2遺伝子に対する比較的単純な発現制御系を介したサイトカイニンとオーキシンの巧妙な相互作用の結果であることを,この論文は示している。

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