光とジベレリンによる協調的制御機構が見えてきた!


Suhua Feng, Cristina Martinez, Giuliana Gusmaroli, Yu Wang, Junli Zhou, Feng Wang, Liying Chen, Lu Yu, Juan M. Iglesias-Pedraz, Stefan Kircher, Eberhard Schaer, Xiangdong Fu, Liu-Min Fan and Xing Wang Deng (2008)
Coordinated regulation of Arabidopsis thaliana development by light and gibberellins. (シロイヌナズナの発生の光とジベレリンによる協調的制御。)
Nature Vol. 451, No. 7177, pp. 475-479.(2008年1月24日号)

Miguel de Lucas, Jean-Michel Daviere, Mariana Rodriguez-Falcon, Mariela Pontin, Juan Manuel Iglesias-Pedraz, Severine Lorrain, Christian Fankhauser, Miguel Angel Blzquez, Elena Titarenko and Salome Prat (2008)
A molecular framework for light and gibberellin control of cell elongation. (細胞伸長の光とジベレリンによる調節に対する分子的枠組み。)
Nature Vol. 451, No. 7177, pp. 480-484.(2008年1月24日号)

 種子から発芽した実生の発生は,ジベレリンGA)によって拮抗的に制御されることが知られている。光(特に赤色光)は,胚軸の成長を抑制し,子葉の展開と拡張を促進し,葉緑体を分化させ,そして様々な光制御遺伝子の活性化をもたらす(この過程を「光形態形成」と呼ぶ)。GAはこれと正反対の作用を示し,黄化成長(いわゆる「もやし」化)を促進する。このような光とGAの正反対の作用は,それぞれが全く無関係に制御されているわけではなく,双方からの情報を収斂し,植物がおかれている環境に合わせて成長を最適化する方向に出力する,細胞内情報伝達機構が存在すると考えられている。
 さて,GA応答の成長を抑制する核内リプレッサー(GA経路リプレッサー)として知られているDELLAタンパク質(そのN末端にGA情報の受容に与るDELLA配列が存在するので,このように呼ばれている。シロイヌナズナでは5種類のDELLAタンパク質が存在する)は,GAによって分解が促進されるとともに,GAレベルを減少させると光によってその蓄積が促進される。このことより,二つの情報を収斂する鍵となる位置にあると考えられて来た。一方,成長に関わる光の情報はファイトクロームBphyB)が受容し,活性型Pfrとして核内に移行し,bHLH(塩基性へリックス−ループ−へリックスタンパク質)ファミリーのメンバーである転写因子PIFphytochrome-interacting factors)と相互作用することにより,光形態形成に関わる遺伝子発現を調整するとされている。しかし,これらの事象を統合する機構に関しては,未だ不明であった。
 Natureの同じ号に掲載された全く別のグループによる二つの論文は,シロイヌナズナを材料として同様な手法によってこの問題にアプローチし,DELLAタンパク質の上流と下流における光とGAの拮抗的な情報伝達機構の詳細を解明した。その要点は以下の通りである。(1)暗所下でGAが一定濃度存在するときは,PIF3PIF4が細胞伸長に関わる遺伝子のプロモーターに結合し,それらの遺伝子発現を促進し,実生は黄化成長する。(2)光照射下では,phyBが赤色光を吸収して活性型Pfrとなって核に移動し,PIF3とPIF4のユビキチン−26Sプロテアソーム系での分解を促進し,黄化成長を阻害する。(3)GA非存在下では,DELLAタンパク質がPIF3やPIF4と相互作用してそれらのプロモーターへの結合を阻害し,黄化成長も阻害される。(4)GAが存在するときは,GAが核内タンパク質のGID1(GAリセプターの一種)と結合することを通しDELLAタンパク質と相互作用し,DELLAタンパク質のユビキチン−26Sプロテアソーム系での分解を促進し,開放されたPIF3とPIF4による細胞伸長へ向けての転写制御が開始する。
 尚,PIF3とPIF4は,細胞壁を弛緩させるエクスパンシン遺伝子等の,細胞伸長に関わる遺伝子群を発現促進する転写因子と考えられているが,他のPIFメンバーは,クロロフィル合成などの光制御応答や種子の発芽の調節などに関与するとされており,いずれもDELLAタンパク質のメンバーにより調整されることが知られている。
 以上のように,植物がどのように光とGAの情報を統合し,変化する環境に適応して最適な成長を維持するかについて,phyBDELLAタンパク質を中心として,その情報伝達と制御機構の詳細が見え始めてきたと言えよう。

追記:転写因子PIF4は,PIF5とともに概日リズムをもたらす体内時計からのシグナルも統合するとされている(Nature 2007年7月19日号)。今回紹介した論文は,PIF5については詳細な実験データを示していないが,おそらくはPIF5も同様な役割を担っているであろうことを示唆している。ここにおいて,光,GA及び体内時計からの三つのシグナルが,これらの転写因子を介して統合されることとなった。今後の研究の進展が期待される。(2月9日記)

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